11月に入って、ぐっと寒くなってきた。
と同時に、色んな用事もどんどん入ってくるようになって…
なんだかすっかり「師走のような雰囲気」になってきている酒丸です。
本来ならば11月は、ウールのアウターとかコートの事について書こうと思っていたんだけど…
先月「ゴッド・ファーザー」について書いたら、
「その映画を観た事がない!」とか「そんなに深く考えた事がなかった!」という意見が多数あった。
オイラの世代は「映画を変態的に観る世代」なのかもしれない。
当時は今と違って情報が少なかったから、映画という娯楽に食らいついていったんだろうな、と思う。
でも今の時代はソーシャルメディアが発達してきているから、情報が過多。
毎日毎日、膨大な情報と接している。
自分にとって必要な情報を10集めるために、10,000の情報を消去していくような時代。
映画ゴッド・ファーザーの情報も「信用している誰かが情報発信しなければ届かない」時代になっている、という事だ。
なので今月は、最低限観ておいて欲しい映画「タクシー・ドライバー」を、
オイラなりに解釈してご紹介。
さて、我々の世代ならどの家庭にもかならずあるとかないとか言われている「タクシー・ドライバー」のDVD。
当然我が家にも、ある。
ご存知「ニューシネマ」の金字塔であり、
前出のゴッド・ファーザーパート2でVITO役を演じたロバート・デ・ニーロが主役。
そして監督はマーティン・スコセッシ。
イタリア系移民でテーラーを営んでいた家庭の息子だった彼は、
映画監督になってからも「服」に並々ならぬ情熱を持っており、
「衣装で役どころを語らせる」事が上手な映画監督。
映画のタイトル通り、主役のデ・ニーロ扮するトラヴィスはタクシー運転手として登場する。
この主人公の役どころは…
「1973年にベトナム戦争から引き上げてきた元海兵隊員で、
タクシードライバーを職業とした孤独な男」という設定。
まずこの設定を、ちゃんと理解しないといけない。
1973年とは、ニクソンアメリカ大統領が「ベトナム戦争終結宣言」をした年。
約24,000人のアメリカ軍兵士が撤退を開始、その中の一人であったという事だ。
そしてもう一つ重要な事、
それは「ベトナム戦争とはアメリカ軍が初めて負けた戦争」だったという事。
現地に大量の兵士を送り込んでの米ソ代理戦争的な側面もあった戦争だが、
実際にベトコンに苦しめられたのはアメリカ軍。
という事は、当時のベトナムには「地獄」がたくさん、あったのだ。
だからこそ、トラヴィスの左腕には「キングコングカンパニー」という架空の部隊名がパッチとして記されている。
外地ベトナムで「過酷な任務に当たった部隊名」こそ、
トラヴィス唯一のアイデンティティーだったのだ。
なのに、戦争が終わって帰ってきた若者には職業すらなかった。
タクシー会社での面接に、その事を物語る一節がある。
面接官「何か得意な事はあるのか?」
トラヴィス「いや…特に。軍にいたんだ」
面接官「(着ている上着を見て)アーミー(陸軍)か?」
トラヴィス「ノー、マリーン(海兵隊)だ」
面接官「お、おれもマリーンに所属してたんだぞ」
このやりとり、深い。
アメリカで兵役経験者ならば、
タンカースジャケットを着ていれば誰でも元アーミーだと思うだろう。
でもトラヴィスはマリーン所属だった。
ではなぜ、海兵隊所属なのに陸軍(アーミー)のジャケットを着ているのか?
さらに言えば、そのジャケットにベトナム参戦時の部隊名を記したパッチとパラトルーパーのパッチが付いているのか?
彼はおそらく…
父親が第二次世界大戦中に着ていたタンカース、
もしくは中古市場でたまたま手にいれたタンカースに、
アイデンティティーとしての部隊名パッチを付けていたのだ。
だからこそ、背中のステンシルは「自分で自分の名前をスプレー」していたのだと推測できる。
ちなみにトラヴィスという名前はTRAVISと書き、この単語の語源は「TRAVEL(旅行者)」が由来らしい。
一人旅は、孤独。
ベトナムでも孤独だった兵士は、ニューヨークに戻ってきても孤独だったのだ。
そしてニューヨークの夜中を走るタクシーこそ、孤独の代名詞なのだろう。
そういった主人公の背景を、衣装ひとつで語らせるマーティン・スコセッシ、すごい。
そしてこの衣装こそ、今回ドライボーンズが手がけた「タンカースジャケット・タクシードライバーバージョン」なのだ。
本来のヴィンテージタンカースジャケット後期型は、
ネームはガーゼ素材の上からコーティングされたアーミーのネームがつく。
が、今回のこの冒頭のやりとりを鑑賞して、
あえてネームには「NAVAL CLOTHINGネーム」を付けてみた。
トラヴィスに寄り添い、スコセッシの解釈に寄り添ってみたのだ。
また、DVDは色々なバージョンが発売されていて…これが本国バージョン。
トラヴィスや背景がモノクロで、
文字だけがイエロー(これはおそらくイエローキャブを表現している)。
なので、もしトラヴィスが「モノクロのタンカースを着ていた場合はどうなのか?」ということも、考えてみた。
1940年代後期から1950年代にかけて、
シアーズやモンゴメリーワードなどの洋服メーカーは、
数多くのシビリアンクローズ(軍服の民間バージョン)を作っている。
タンカースにも様々な色が作られていて、
ヴィンテージマニア間では「赤いタンカース(通称:赤タン)」や
「藍色のタンカース(通称:青タン)」、
レアな黒タンもあった。
もしトラヴィスがタクシー会社面接時に「黒いタンカース&キングコングカンパニー」で来ていたら…
「オレはベトナムで諜報部隊にいたんだぜ」的なアピールになったかもしれない。
ニューヨークの闇に溶け込むほどの、黒いタンカース。
元諜報部隊役としては、うってつけな衣装だろう。
そんな発想の元にブラックタンカースバージョンも作ってみたのだが…
今回はせっかくなのでパッチそのものも「別売り」を用意してみた。
キングコングカンパニーとパラトルーパーの2種類(オンラインショップ掲載しました)。
このパッチ類も、ちゃんと時代考証を正しく行って作ってみた。
裏側を見て欲しい。
縁取りの黄色いラインが、ちゃんと裏側まで回り込んでいる。
これは円形に裁断したのち、刺繍糸で周りがほつれないようにかがっている作り方。
1970年代後期に「裏の溶剤が高温で溶けて繊維に付着するパッチ(アイロンパッチ)」が開発される。
この頃、パッチの土台となる素材もコットンからポリエステルに進化し、
カッターでの裁断ではなくヒートカッターで熱処理して円形に抜くようになってきた。
だから周りをかがる必要が無くなってきたのだ。
そういったパッチは、ベトナム戦争時には存在していない。
なので、当時と同じ作り方で再現。
そして裏側には白く網目状の生地が付く。
これは「寒冷紗(かんれいしゃ)」といって、パッチそのものの耐久性をあげるもの。
最近のものは溶剤が付くのでこれが必要ないが、当時のものは縫いつけ時に歪んでしまわないよう寒冷紗が必要だった。
なので、自分が持っているタンカースジャケット後期型に、このようにつけても良い(ちゃんとヴィンテージを元に作っていますよ的なアピールも兼ねて)。
さらにもう一歩進化させて…B-15Aにこのパッチが付いていたら。
かなり配役の意味が変わってくる。
第二次世界大戦中のパイロット(エアフォース)のジャケットだから、
孤独がもっと強調されていたかもしれない。
それとも…M-421Aだったらどうだろう?
この場合、U.S.NAVYだということはわかるんだが時代設定がちょっとズレてくる。
しかも夏用バージョンだからニューヨークには似合わない。
もっと突飛に…レオパード柄レタードジャケットだったら。
孤独感、ゼロ。パーティ野郎だ。
ここはやはり自社製品で、N-1デッキジャケットが正解のひとつだろう。
正統派マリーン所属ということが、一目でわかる。
ではこれは?
黒いN-1デッキジャケットになると、諜報部隊っぽさが出てくる。
今や情報源はソーシャルメディア、ソーシャルネットワークの時代。
こんなタクシードライバーがいたら、優先的に予約しちゃうと思います。
「我こそは!」というトラヴィス贔屓の運転手さん、いましたらご一報を。
絶対に乗ってみたい。
あ、その際のユニフォームのご用命は、ぜひ当方に(コマーシャル)。
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