古きを訪ねて新しきを作り、次世代に繋ぐ。その17

 

年内最後の、酒丸の出番となりました。

今年の冬は早くて寒い!

気がつけば12月7日には二十四節気のひとつ「大雪」を過ぎており。

が、アパレル業界の企画としては、もう夏本番。

夏物の仕込みに大わらわ。

 

 

さて。

今日の「古きを訪ねて新しきを作り、次世代に繋ぐ」は、

今までとはちょっと視点を変えて縫製側のことについてちょっと書いてみたい。

先日、2018年度の春物第1弾が縫製工場から上がってきた。

ちょっと早い完成ではあるが、

実は不安な部分もあってずっと気にしていたし、

期待の部分も大きくて待ちに待っていた。

なぜならば「全く新しい試み」だから。

ドライボーンズというブランドを始めて、早28年。

大抵のモノは作ってきたという自負を持ってる。

が、今回のモノは全く初めて。

それで期待と不安が入り混じった、ドキドキした気持ちになっていたのだ。

 

それがこれ!

美しく刺繍が施された、ウエスタンシャツ。

白地はこんな感じ。

ピンク地はこれ。

ちなみに元ネタは、このヴィンテージ。

「ドライボーンズはこんな感じのウエスタンシャツ、

過去にもたくさん作ってきたじゃーん!」という声が聞こえてきそう。

そう、確かに今までこんな感じのシャツはたくさん作ってきた。

でも、今回のモノは縫製が全く違うのだ。

 

 基本的にシャツの縫製は、直線縫いが多い。

というより、ほとんどの箇所が直線縫い。

ある1箇所を除いては。

その1箇所とは…アームホール。

この写真の右端に、赤い線で描いてみた。

 

このアームホールの縫製だけは、

円…というより『山なり』に裁断したパーツを縫い合わせねばならず、

縫製職人の腕の見せ所。

 

この部分だけはパートの人にはやらせず、工場長が担当する場合も多い。

それだけ責任重大だし、難しい箇所。

 

ドライボーンズのシャツは、

オープン系のシャツならばこの部分はダブルの環縫い。

ボタンダウンやその他のドレッシーなシャツならば、

12ミリ幅のシングル折り伏せ縫いを採用。

かなり高度なテクニックを必要とする縫製で、

シャツ工場さんに頑張ってもらっているのだ。

 

この部分がなぜ難しいのか?というと…

それは「生地とは斜め方向が伸びるから」という理由に尽きる。

(もうひとつは裏側から縫わねばならないため、目視できない)

基本的に布帛生地は縦や横方向には伸びない。

ところが、斜め方向(いわゆるバイアス)には伸びる性質を持っている。

アームホールの縫製は…

「横方向の裁断から始まり、

斜めにカーヴしながら登って頂上で縦方向になり、

また斜めに下って横方向の裁断で終わる」

袖というパーツを、身頃に縫い付ける作業なのだ。

 

カーヴをキープしながら縫うだけでも大変なのに、

途中で2回もバイアス部分が出てくる。

つまり、上手にミシンの調子を見ながら斜めが変に伸びないように注意しつつ、

綺麗に頂上を出して縫い始めと縫い終わりをバッチリ合わせる、

という非常に難しいミッションの連続なのだ。

 

故に、ドライボーンズの通常のシャツは、

袖山(さっきの赤い部分の麓から頂上まで)の高さは、

だいたい12センチくらいまで。

(本音を言うと)ダッサい安物のシャツは、この袖山が10センチ未満の場合がある。

ところが、今回のウエスタンシャツは、この袖山が15センチ近くあるのだ。

15センチもあると、当然バイヤス部分も長くなるし頂上が狭くなってしまう。

よって「巻き縫い」や「折り伏せ縫い」は不可能。

 

 私はこのヴィンテージが「なぜ1950年代にこんな作り方をしているのか?」を考えた。

このシャツは、

一般的なウエスタンシャツ(つまり牧場で作業用に着るワークシャツ)ではなく、

パレード用。

つまり「綺麗に着るべきシャツ」であった。

 

また、パレード用ウエスタンシャツということは…当然、馬に乗っている。

よって、姿勢は腕は手綱を持ちながら自然体で下に降りている感じ。

この姿勢をキープするためのアームホールになっていなければならない。

ということは、一体何に近いのか?

それこそ、皆さんもご存知「背広のアームホール」と、ほとんど同じなのだ。

つまり、このパレード用ウエスタンシャツは

「ジャケットと同じアームホールの縫製仕様で作られたシャツ」

のだ!

 

シャツとジャケットでは、工賃が3倍以上違う。

ただし、比較的厚手の生地も縫えるし、アームホール以外の部分にカーヴも付けられる(ジャケット縫製工場は、比較的カーヴを得意とするところが多い:それは生地が厚くなってミシンに抵抗がかかり伸び止めになるという理由もある)。

 

なので、今回初めて「ジャケット工場と同じクオリティでシャツを縫う」ということをしてみた。

だから、様々な箇所にカーヴを使用してみた。

例えば後ろヨークの縫い合わせ。

しかも、パイピング付き。

そしてカフス部分には恐るべき急カーヴを描くパーツが。

更に、胸の切り替えもカーヴだし、ポケットも弓形にカーヴ(しかも両玉縁取り)。

常識的に考えて、これはシャツ工場の仕事ではない。

もう「衣装」のレベル。

こんな衣装レベルの縫製を、1950年代は大量生産していたのだ。

恐るべし、1950年代。

 

細かなことを言えば、袖の作り方も独特。

普通、筒状になっている袖の縫い合わせ部分は脇の下に来るのだが…

このシャツは後ろの二枚袖用のハギ部分が合わせになっている(一枚なのに)。

さらのその部分を裏返してみると…

なんと「割縫い」!!

更にその割ってある部分をコバステッチで折りにしているのだ!!!

 

刺繍も凄い。

この白と黒の糸を使った唐草模様の刺繍、実はチェーンステッチ。

もちろんヴィンテージもチェーンステッチ。

 

ところがヴィンテージのチェーンステッチ部分に使われている糸は「染め分け糸」だった。

つまり、ひとつの巻きの糸が2色に染め分けられているのだ。

一気にチェーンステッチで刺繍しても途中で色が次々に変わるから、

立体感が出る。

 

ところが、21世紀の日本にはそんな糸は存在していない。

もし作るとなれば、10,000メートルくらい作らなきゃいけない。

そこでうちの刺繍工場さんが、頑張ってくれた。

なんと、2色の染め分け糸を使って刺繍しているように見せるために、

1色縫っては糸を切って色替えをし、

また次の色を縫っては糸を切って糸替えをし…を繰り返し、

当時のヴィンテージと同じような立体感を出したのである!

 

このアームホールの件やカーヴの縫い、

更にはチェーンステッチの染め分け糸など、

やはりヴィンテージから学ぶことは多い。

 

そしてそれを叩き台に、

改めて商品化して世の中に出していくという行為に、

意義を感じている。

 

 この年末、早くも続々と春物も入荷中。

皆様のご来店を、お待ちしております!

Leave a Reply